「それでは私たちは、今使っている宿を引き払った後、『若葉の風亭』と言う宿に移ればいいのですね?」
「うん! 僕と司祭様はそこに泊まってるし、うちの村の人たちもイーノックカウに来た時はいっつもそこに泊まってるんだ」
僕たちはこれから錬金術ギルドに行く事になってるでしょ?
だけどニコラさんたちは一緒に来てもやる事が何にもないから、ここで一旦お別れ。
また夜に、僕たちが泊まってるお宿で会おうねって事になったんだ。
ニコラさんたちは僕の所属ってのになったから、もう自分のお金は使えないんだって。
でも、そしたら今使ってる宿屋さんにはもう泊まる事ができないでしょ?
だから僕、最初は買ったお家にあるお客さん用のお部屋に泊まってねって言ったんだよ。
だってニコラさんたちが使うって言ってたお部屋には、ベッドどころか毛布さえなかったからね。
なのにそれを聞いたニコラさんたちは、
「あんなところに泊まるだなんて。豪華すぎて眠れる気がしません」
なんてって言って、自分たちは一階にある自分たちが使うお部屋の床で寝るから大丈夫なんて言うんだもん。
それを聞いた僕はびっくりして、そんなのだめだよって言ったんだ。
「え〜、ダメだよ。だって下に引くもんも無いんだよ? そんなとこで寝てたら、体が痛くなっちゃうじゃないか!」
「あら、大丈夫よ。私たちは冒険者ですもの。野営をするのに比べたら見張りをしなくてもいいし、屋根まであるんだから十分よ」
ニコラさんたちは普段、この街の近くの森で薬草を採取したり、弱い魔物や動物をやっつけるお仕事をしてたでしょ?
だから商隊の護衛依頼とかはほとんどやった事が無いんだって。
でも、もしかしたらやる事があるかもしてないって事で、くるまって寝られるマントは3人とも持ってるそうなんだ。
毛布とかは無くってもそれにくるまって寝るから、ニコラさんたちはそのまんま床で寝てもいいんだよって言うんだよね。
でもね、僕たちのお話を横で聞いてたバーリマンさんが、それはダメだよって言うんだ。
「それはちょっと難しいかもしれないわよ」
「何故ですか?」
「あの館ではこれから、フランセン家のメイド見習いや執事見習いが働くことになっているでしょ? だからその為の家具や道具を運び込むために、館のカギはローランドに預けないといけないもの」
僕のお家、二階はちゃんと家具が入ってるけど、一階には何にもないでしょ?
だからストールさんたちが来る前に、いろんなものを入れないとダメなんだって。
「それに、用途によっては手を入れないといけない部屋もあるでしょ? そう言うところの工事は夜間にやる事が多いから、少なくとも数日はここに泊まるのは無理ね」
「なるほど。確かに私たちがいては、その工事の邪魔になるかもしれませんね」
ニコラさんたちが寝るお部屋は家具を入れるくらいで、何か工事をするわけじゃないんだよ。
でも近くで女の人が寝てたら、工事の人たちもおっきな音出しちゃダメかなぁ? って思うよね。
だから工事が終わるまでのちょっとの間は、このお家に泊まるのはダメなんだってさ。
「まぁ昼間もやれば改装工事は2〜3日で終わるだろうし、あなたたちが使うベッドもそれくらいあれば設置できるでしょうから、その間は別の場所に泊まってもらえるかしら?」
「そう言う事でしたら、しばらくは今使っている宿に泊まる事にします」
って事でニコラさんたちはこのお家に住めるようになるちょっとの間、今使ってるお宿に泊まろうって思ったんだよ?
でもここで一つ、問題がある事が解ったんだ。
ニコラさんたちが泊まってるお宿はね、すっごく安いとこだからギルドカードでお金が払えないんだって。
「それは困ったわね。所属扱いになった以上、あなたたちの宿泊費はルディーン君が払わないといけないのよ」
「あっ、そっか! 僕、お金持ってないから、それだと払えないや」
そりゃあ、ちょっとは持ってるよ?
でも僕たちが泊まってる『若葉の風亭』って、確か一人一泊銀貨12枚いるんだよね。
ニコラさんたちが泊まってるとこは安いとこだって言ってたからそんなにしないかもしれないけど、それでも半分の銀貨6枚はすると思うんだ。
それを3人分、何日間か払おうって思ったら、今僕が持ってるだけじゃ全然足らないんだよね。
「そうだ! だったらさ、僕たちが泊まってる宿屋さんに泊まればいいよ」
『若葉の風亭』はちゃんとギルドカードでお金が払えるでしょ?
だからあそこだったら、大丈夫だよねって思ってんだ。
「ああ、なるほど。確かにあそこなら問題は無いわね」
「でしょ? それにあそこだったら、冒険者ギルドから錬金術ギルドに行く途中にあるもん。ちょっと寄って、ニコラさんたちも泊まるよって言ってけばいいでしょ?」
バーリマンさんもいいよって言ってくれたし、『若葉の風亭』は朝と晩のご飯がついてるからそのお金もちゃんと僕が出したことになるでしょ?
って事で、工事が終わるまでにちょっとの間、ニコラさんたちは『若葉の風亭』に泊まる事になったんだ。
■
「えっと、ここで間違いないわよね?」
私たち3人は、壁全体が木彫り細工で飾られた3階建ての凄く高そうな宿を前にしていた。
そしてその宿には、ルディーン君から聞かされた『若葉の風亭』と書かれた看板が。
という事は、、間違いなくここがこれから数日間泊まる事になる宿屋という事で……
「ねぇ、ニコラ。門番の人がこっち見てるわよ」
ユリアナの言う通り、この宿屋の制服であろう者に身を包んだ男の人が、さっきからこの宿の前にぼ〜っと立っている私たちの事を怪しむような眼で見ているわ。
それはそうよね。
だって私たち、どう考えてもこんな所に泊まるようには見えないもの。
「どうする? 引き返す?」
「でも、ルディーン君とはここで待ち合わせしているし」
正直入りたくはない。
でもルディーン君とはここで落ち合う約束だし、何より前もって部屋を取っておくと言っていたもの。
ここで逃げて錬金術ギルドに行ったとしても、結局はまた来ることになってしまうだろう。
「うん。ここは覚悟を決めて入りましょう」
逃げても無駄ならば、わざわざ錬金術ギルドに行ってルディーン君に迷惑をかけるわけにはいかない。
という事で私たちは門の前に立っている男の人に、予約が入っているはずであると伝えた。
すると先ほどまでの態度とはがらりと変わり、
「ニコラ・キルヴィ様ですね。グランリルの村のカールフェルト様からお話は承っております。どうぞこちらへ」
彼はそう言うと、私たちを宿の中にいた別の従業員に預けた。
「それではごゆっくりお過ごしください」
その人は私たちを3人部屋に案内し、ルディーン君たちが帰ってきたら声を掛けますねと伝えた後、こう言って下がっていった。
そして残された私たちはと言うと……。
「ここ、あの館の客室とほとんど変わらない気がするんだけど?」
「おまけにいつでも入れるお風呂まであるって言ってたわよ?」
「ねぇ私たち、本当にここで数日間、生活するの?」
今まで私たちが寝泊まりしてきた宿とのあまりの違いに、ただただ震え上がるのであった。
前回お姉さんたちの話は終わりと書きましたが、この話がある事を忘れていましたw
と言う訳でもう一話延長です。
さて、ルディーン君はニコラさんたちが泊まっていた宿を銀貨6枚くらいだと考えていましたよね。
でも冒険者が使っている宿がもしそんなにしたら、ほとんどの人たちは1泊すらできないでしょう。
なので本来なら『若葉の風亭』に泊めるといった時点で誰かが止めるはずなのですが、聞いた相手が貴族であるバーリマンさんだったため、あそこなら大丈夫となってしまったと言う訳です。